ノラ猫
 
「凛」


あたしの名前を呼んで、ソファーに座っているあたしの前にひざまずいた。
両手を取り、まじめな顔をして見上げてくる。


「俺と一緒に戦えるか?」
「え……?」


その「戦い」と意味が読み取れず、首をかしげて智紀を見下ろした。

握る手が、ぎゅっと強くなって、智紀が辛い顔をする。


「もしかしたら凛に、辛い思いを思い出させちまうかもしれない。
 言いたくないことを公にしてしまうかもしれない。

 それでも凛に、もう二度とアイツを近付けさせたくないから……。

 俺と一緒に戦える?」

「……」


そこまで言われて、智紀の言いたいことをなんとなく理解した。


その「辛い思い」というのは、きっとあたしがにいさんにされていたこと。
公にするということは……世間に知られてしまうかもしれないということ。


それがどのような手段なのか分からない。
そうすることによって、にいさんがどうやって遠ざかるかも分からない。


だけど自分の傍には智紀がいてくれる。
今さら、智紀以外の人に白い目で見られたって、何も思わない。


それなら……



「……たたか、う……。
 もうこんな、怯えた生活なんて嫌だ」



辛い思いなんて
今までされてきたことに比べたら、それ以上のものはない。
 
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