ノラ猫
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あの日から、1か月が経った。
俺らは念のため、もといたマンションから引っ越して、新しいマンションにいる。
先週引っ越しを終えたばかりで、仕事でなかなか家にいられない俺の代わりに、凛が着々と片づけをしてくれていた。
「どう?いいの見つかった?」
《うーん……。どれも同じに見えて、イマイチよく分からない》
電話先の、愛しい人の声。
仕事が終わり、帰りがけに電話をかけると、昔に比べて明るくなった声で話してくれていた。
《やっぱり今度、智紀が休みの日に一緒に見に行って》
「分かったよ」
今度の休みは3日後。
土日だけは、絶対に休みを死守してやる。
凛がまさに今、悩んでいるのはエンゲージリング。
結婚を来月に控えていて、早く用意しないと間に合わない。
「じゃあ、続きは帰ってから聞くよ」
《うん。気を付けて帰ってね》
「ああ」
それだけ言って、電話を切った。
いよいよ迫った、結婚の期日。
あのあともう一度一人で神楽坂の家に行って、未成年である凛の結婚の承諾だけもらってきた。
変わらず神楽坂は冷淡な対応だったけど、俺らの結婚に口出すことはなかった。