ノラ猫
14章 記憶のカケラ
 
「はぁっ…はぁっ……」


息が切れる。
足がもつれる。


だけど早く……
一秒でも早く……!!



「すみません!あのっ……横川っ…智紀はっ……!?」
「横川智紀さんですね。こちらです」



薬品が漂う院内。

汗を額から流しながら、ただ無事を祈るばかりだった。



  ***



(もしもし?)


始まりは、一本の電話だった。

少し前に智紀に買ってもらった携帯電話。
メモリには、智紀しか入っていない。


記されているのは見慣れない番号。
携帯でもなく、都心部の市外局番だ。


不審に思いながらも電話に出ると、緊張感のある女の人の声で……


《横川智紀さんをご存じでしょうか》
(え?あ、はい……)



《横川さんが今、何者かに刺され、こちらの病院に搬送されております》



耳が……

おかしくなったのかと思った。
 
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