ノラ猫
「とも、きっ……」
泣かないと決めていたはずなのに
思い出してしまった幸せの過去を想い、涙があふれ出てきた。
もう一人は嫌なの。
一人ぼっちで生きるなんて嫌。
温もりを…優しさを知ってしまったから……。
愛されることを覚えてしまったから……。
「智紀じゃないとダメなんだよっ……」
誰でも愛せるものじゃない。
彼だから……
あたしを救ってくれた彼だから……
お願い。
もう一度その腕で抱きしめて―――。
「……………ん…」
「!!」
かすかに感じた、人の気配。
伏せていた顔を上げると、そこには瞼を開けた智紀がいて……
「智紀っ!!」
信じられない奇跡に
それすらも夢なんじゃないかと思った。