ノラ猫
「……」
一人、いつもの部屋へと帰った。
ようやく、片づけられた部屋。
大きくなったベッドには、枕が二つ並んで、
キッチンには、シンプルな赤と黒のマグカップが並べられている。
せっかく広い部屋へと引っ越したというのに、智紀がここで寝たのはどれくらいだろう……。
たった数日……。
だけどそれで十分なほど、この部屋には智紀の存在感があった。
自分の部屋なのに
自分の部屋じゃないみたい。
まるで他人の部屋に来てしまったようだ。
智紀が目を覚ます前も一人で辛かったけど、今はその時以上に辛い。
目を覚ましているのに
彼の中にはあたしは存在していないから……。
何もする気も起きなく
ベッドへとなだれ込んだ。
一人では広すぎるベッド。
不安と寂しさで心が押しつぶされてしまいそうで……。
「……っ…」
闇夜の中、
枕に沁みを作って朝が来るのを待った。