ノラ猫
 
「はぁ……」


次の日、あたしは迷いながらも病院の前に立っていた。

本当は行くつもりはなかった。
だけど朝、かかってきた一本の電話。

雄介さんからだった。


《病院、ちゃんと来なよ?
 来ないと、本当に凛ちゃんのこと、思いだせなくなっちゃうかもだから》


その言葉を聞いて、怖さを感じながらも病院に行くしかなかった。


また、あの他人のような目で見られるのが怖い。
「誰?」と聞かれるのが怖い。

だけど雄介さんの言うとおり、このまま自分が姿を消してしまったら、智紀はあたしのことなんて本当に忘れてしまうかもしれない。


それだけはやっぱり嫌だったから……。



「凛ちゃん」


ふいに後ろから声をかけられ、振り返った。

そこには、ほっとしたような顔をする雄介さん。


「よかった。ちゃんと来てくれたんだな」
「……はい」
「行こう。俺も一緒に行くから」


まだためらうあたしを促すように、雄介さんは先を歩いてくれた。
 
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