ノラ猫
 
「入るぞ」


病室をノックして、先に入っていく雄介さん。
あたしはまだ怖くて、ドア付近に立ちつくしたまま。


「お前も暇だな」
「あのなー。これでも仕事抜け出して来てやってんだぞ」
「さんきゅ」


目の前でやりとりされる、二人が仲良く話す会話。

中に入れず、ただじっと見つめる。


「ほら。凛ちゃんも入っておいでよ」
「あ……」


一向に中に入らないあたしを見て、雄介さんが中へ促した。


「智紀、分かるだろ?」


一晩経って、何かが変わったかもしれない。
催促する雄介さんに、智紀はあたしの顔を見ると、


「ああ」


と頷く。

予想外の返事にパッと顔を上げると、


「凛……ちゃんだっけ」

「……」


やっぱり続けられた言葉は、あたしを落ち込ませる言葉だった。
 
< 185 / 258 >

この作品をシェア

pagetop