ノラ猫
「入るぞ」
病室をノックして、先に入っていく雄介さん。
あたしはまだ怖くて、ドア付近に立ちつくしたまま。
「お前も暇だな」
「あのなー。これでも仕事抜け出して来てやってんだぞ」
「さんきゅ」
目の前でやりとりされる、二人が仲良く話す会話。
中に入れず、ただじっと見つめる。
「ほら。凛ちゃんも入っておいでよ」
「あ……」
一向に中に入らないあたしを見て、雄介さんが中へ促した。
「智紀、分かるだろ?」
一晩経って、何かが変わったかもしれない。
催促する雄介さんに、智紀はあたしの顔を見ると、
「ああ」
と頷く。
予想外の返事にパッと顔を上げると、
「凛……ちゃんだっけ」
「……」
やっぱり続けられた言葉は、あたしを落ち込ませる言葉だった。