ノラ猫
途端に泣きそうになった。
分かってはいたけど、やっぱり辛い。
智紀はパッとあたしから目を逸らすと、また雄介さんへと向き直ってしまった。
「何照れてんだよ。せっかく彼女が見舞いに来てくれたって言うのに」
「…べつに照れてねぇよ」
「またまた」
わざとこの場の空気をなごますように、雄介さんが明るく話してくれる。
あたしも何か話さないと……。
「智紀、具合は?」
「普通。傷口もそんな痛くないし」
「そっか……」
「……」
会話を振っても、続かない。
智紀が、目を合わせてくれない。
それもそうだよね。
智紀にとっては、あたしは知らない女の子。
「あ、たし……花瓶の水、変えてきますね」
この場にいるのが耐えられなくて、棚に置いてあった花瓶に手をかけた。
もう嫌だ……。