ノラ猫
「おかしいよなー……。
凛ちゃんは、最初から智紀の女の子だって分かってたのに……」
上を見上げながら、ぽつりと漏らす言葉。
あふれ出てきていた涙も止まって、ただ雄介さんを見上げる。
「そんなふうに泣いている姿を見たら、すげぇ愛しく感じちゃうなんて……」
「……」
雄介さんは視線をあたしへと向けると、いつものおちゃらけたような表情はどこにもなかった。
真剣なまなざしで、じっとあたしを見つめてる。
「凛ちゃんさえよかったら、いつでも俺のところに来ていいよ。
俺も全力で凛ちゃんを好きになれる自信あるから」
直球すぎる言葉に、何も言い返せず、唇が震えるばかりだった。
「なんてな。
急にそんなこと言われたって困るよな」
戸惑っているあたしに、雄介さんはいつものニコリとした表情を見せると、また場を和ませてくれる。
だけどさっき聞いた告白が、頭の中でぐるぐる回って緊張が取れない。
「今すぐどうこうってことじゃないから。
凛ちゃんが本当に疲れて、智紀のことを諦めたくなったら俺のところにおいで」
「……」
「さ!あとは言い逃げ!!
俺は智紀のとこに戻るよ」
何か返事をしないといけないのに、言葉が見つからず戸惑っているあたしに、さっと後ろへ下がる雄介さん。
そして変わらない笑顔を向けると、
「またね」
と言って、病院へと戻っていってしまった。