ノラ猫
16章 すれ違う心
俺は一人、雄介と彼女が立ち去った病院に取り残されていた。
あの子、すげぇ泣きそうな顔してたな……。
そりゃそうだ。
恋人と言われた男に、知らない奴呼ばわりされたんだ。
でもそんなこと言われたって仕方ないだろ。
どんなに記憶を探っても、俺の中に凛という彼女はいない。
いきなり現れて……
しかも10個も年下の女の子を彼女と言われても、受け入れられるはずがない。
「………くそ…」
体はまだ痛んで、
どうにもならない記憶に苛立ちを隠せなかった。
「凛ちゃん、泣いてたぞ」
しばらくして、病室に戻ってきた雄介。
顔を上げると、今までに見たことのないほどの怖い顔をしていた。
「……ああ」
だけどそう言われても、俺は頷くことしか出来ない。
「なあ」
「なんだよ」
「俺がもらってもいい?」
思いがけない言葉に、驚いてもう一度雄介を見やった。