ノラ猫
 
「あ、ごめんなさいっ……。
 気に障りました?」

「あ、いや別に……」


黙ってしまう俺に、彼女は困った顔をを見せた。


「よかった……。
 あたし、ずっと入退院繰り返しているから仲のいい友達とかいなくて……。
 同年代の人を見ると、つい話しかけちゃうんです」


だけど否定する俺の言葉に、安心してにこっと微笑み、もしその入退院を繰り返していなければ、友達もたくさんできる子なんだな…と思った。


表情の豊かな子。


それが彼女の印象。


アイツとは正反対だな……。


「……ん?」
「どうしました?」
「……いや、なんでもない」


心の中でそう思ったとき、違和感を感じた。


アイツとは正反対って……いったい誰と今比べたんだ?


雄介?
いや、あいつは熱い男だから、コロコロ表情を変える。

仕事仲間?
違う。俺の周りには、無表情な人間なんていない。



……凛?


そんなこと、ない……。
アイツだって、俺に対して、泣きそうになったり笑顔を向けたりしている。

表情は……ちゃんとある。


じゃあ、今俺の中で感じた「アイツ」って……?
 
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