ノラ猫
その日から、俺と彼女は、病院の屋上で一緒に過ごすことが多くなった。
呼び名も「智紀」と「綾香」と呼び合うようになり、綾香と話している間だけは、モヤモヤしたものが晴れる気がして……。
凛があの日以来来なくなったのも、気にしないで済むようになっていた。
じゃないと、俺の頭の中には
無理やり作った泣きそうな凛の顔がずっと焼き付いていて……。
逃げるわけじゃないけど、凛が見舞いに来なくて、よかったと思っている自分もいた。
「智紀っ……」
一人屋上で綾香のことを待っていると、ドンと背中に振動がきた。
振り返ると綾香が俺に抱き着いていて……
「どうしようっ……あたしっ……」
「綾香?」
なぜか体を震わせていた。
「どうした?」
何に怯えているか分からず、なだめるように肩を抱いた。
綾香はゆっくりと顔を上げると、俺を見つめる。
「あたし……手術っ……だって……」
そう言って、綾香は途切れ途切れに話し始めた。