ノラ猫
 
「あ……」


振り返った先に、目を大きく見開いて立ち尽くす一人の少女。

それを見て、俺のほうが心臓に衝撃を受けた。


凛……。


そこにいたのは、今まさに、俺の頭に思い浮かんでいた凛だった。


「ご、めんなさい……。邪魔するつもりなくて……」


遠慮がちに開かれた口。

それもそうだ。
今凛の目に映っているのは、自分以外の彼女を抱きしめている俺。

いったい、どんな気持ちなんだろう……。


「……っ」

「凛っ!!」


凛はそのまま、逃げるようにして走り去ってしまった。



早く追いかけないと……。
追いかけて凛を捕まえないとっ……。

じゃないと手遅れになる。


そう思っているのに、



「智紀……?」

「綾香……」



不安げに俺の服の裾を掴む綾香を、放っておけないと思う自分もいる。


凛?
綾香?


俺の気持ちは、どこへ向かっているんだろうか。
 
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