ノラ猫
「はい」
「……ありがとう…ございます……」
座椅子式ソファーに腰掛けている中、渡されたマグカップ。
そこからは、コーヒーのいい匂いがした。
「少しは落ち着いた?」
「……はい…」
雄介さんも、同じようにコーヒーに口づけながら、あたしの前に座った。
道の往来で泣き叫ぶあたしを、雄介さんは驚きながらもなだめてくれて……。
このままではどこかへ消えてしまいそうなあたしを、自分の家へと招き入れてくれたのだ。
「智紀のこと、だよね。泣いてた原因って……」
「……」
涙が完全に落ち着いて、雄介さんは原因を聞いてきた。
智紀が原因……。
だけど……
「智紀が悪いわけじゃ……ないですから……」
こんな結果になるのは、決して彼だけが悪いことじゃないんだ。
記憶がない今、彼はまっさらな状態。
だからあたしを好きになる可能性も、他の誰かを好きになる可能性も同じ。
彼が選んだのが
あたしじゃない別の女の人であっても……
それは悪いことじゃない。