ノラ猫
 
「だからこれからは少しずつ前に進んでいこうよ。
 綺麗な凛ちゃんを、俺で汚させないで」

「……」


にこりと微笑んで、あたしの頭を撫でた。


ああ、もう駄目だ……。
そんな言葉、あたしにはふさわしくない。


綺麗なんて言葉は、もうずっと前に捨てた。
にいさんに犯されていたからじゃない。
そのあとあたしは、自らいろんな人に抱かれる道を選んできたんだから……。


このままだと、あたしが純粋な雄介さんをけがしてしまいそう……。


「じゃあ、ひとまず少しゆっくりしよっか。
 小腹減らない?冷蔵庫に何かあったかなー」


雄介さんはわざとこの場を和ますように、明るく言い切って立ち上がった。

廊下へ続くキッチンへ姿を消して
あたしに一人の時間を与えてくれる。


優しくて……純粋な人。


まさにこの言葉がピッタリだった。


「……」


それなのに、あたしはバカみたいな台詞吐いて……。


(あたしのこと……好きにしていいですから)


もう、恥ずかしくて消えてしまいたい。
 
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