ノラ猫
 
あたしなんかが雄介さんの傍にいたら
いつかきっと、その純粋な心を汚してしまう。


自分を好きでいてくれることを利用して
とことん甘えてしまう。


きっとそんなんじゃいけないから……。


だからといって、智紀のもとへ戻るの?


……そんなこと出来ない。


さっき見てしまった、智紀が女の人を抱きしめている光景。

会話までは聞いてないけど、そんなの聞く必要なんてないほど、それは絵になる二人だった……。


本当はね……どこかで信じてた。


いつか智紀の記憶が戻って、また昔のように「凛」って笑ってくれること。
たとえ記憶が戻らなくても、もう一度あたしのことを好きになってくれるって……。


だけど……


「……っ…」


智紀は、あたしではない別の人を選んだ。



苦しい……。
胸が痛い。


どうしてこんなに、息苦しいんだろう……。
 
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