ノラ猫
 
辛い思いも、痛い思いも
今までいっぱい受けてきた。

ちょっとやそっとじゃ、もう大丈夫な体になっているはずだった。

だけどそれとは違う感覚の苦しさ……。


智紀が別の人に触れていると思うだけで
どうしようもないほどの痛みが襲ってくる。


ああ、これが誰かを好きになってから生まれる、嫉妬というものなのか……。


智紀に抱きしめられていた彼女が羨ましい。
愛され、優しい瞳を向けられる彼女がズルイ。


だってその手も瞳も
全部あたしに向けられていたものだったのに……。


痛い…
心が痛い。


あたしが愛した智紀は、もういなくなってしまった。

あたしを愛してくれた智紀は、記憶を捨てていなくなってしまった。


だからもう、あたしが引き下がるしかない。
あたしが我慢すれば、それでいい。


だけどもう、
心が限界だよ、って悲鳴をあげてる。


じゃあ、どうすればいいの?



「……」



そっか。
一つだけ……
たった一つだけ方法がある。



心をもう一度、殺してしまえばいいんだ……。

 
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