ノラ猫
「お待たせ。ごめんね。スナック菓子とかしかなくて………。凛ちゃん?」
「……」
キッチンから戻ってきた雄介さん。
それと同時に立ち上がり、一人玄関へと向かった。
「どうしたの?何か用事?」
靴を履いているあたしに、戸惑いながら声をかけてくる。
だけど何も答えないあたしに、たまらず雄介さんが腕を掴んだ。
「凛………っ」
「……」
掴まれた反動で振り返ると、そのまま雄介さんを見上げた。
その途端、彼が言葉を失っている。
この瞳、どこかで見たことあるな……。
確か智紀と初めて会ったときも……智紀にそんな顔されたっけ……。
「雄介さん」
ひどく落ち着いた声で、彼の名前を呼んだ。
雄介さんは驚いたまま、あたしを見つめている。
「今までありがとうございました。
たくさん……お世話になりました」
機械的なお礼の言葉。
淡々とした、最後の言葉。
何も言葉を発さない雄介さんに深く頭を下げた。
そしてドアノブに手をかける。
「……っ凛ちゃん!」
最後の最後、彼があたしの名前を呼ぶ声がした。
だけどもう振り返らない。
今のあたしに、自分を引き留める声なんか必要ないから。