ノラ猫
 
「え……?」


まさかの言葉。

心臓がドクドクと速まっていく。


「ちょっと気にかかることがあったから、仕事前にお前んち寄ったんだけど……誰も出てこなくて……。
 携帯にも電話かけたけど、全然繋がらないんだ」

「……」


凛がいなくなった……?
だって昨日、確かに病院に来て……。

じゃあ、俺らを見て、姿を消したってことか……?


「とーもきっ」


何も言えず黙っている俺のもとへ、また別の声が聞こえた。

雄介と一緒に振り返ると、慌てて駆け寄ってくる綾香がいた。


「よかったぁ、間に合ってっ……。
 さっき看護師さんから聞いて。今日退院なんでしょ?」

「……ああ」


俺は中途半端な人間。

凛を追いかけず、綾香のもとへ残ったというのに、綾香には今日が退院だということを伝えなかった。


まるで逃げるように……。


「あの……明後日が手術の日なの。
 それまでお見舞いとか、来てくれることって出来ない、かな……」


それを悟ったのか、不安げに俺を見つめる。


明後日が綾香の手術の日。
不安な気持ちは分かる。

一瞬だけ戸惑ったけど、すぐに綾香へと向き直って、


「仕事が終わったあとなら」


一言、そう答えた。
 
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