ノラ猫
 




「はぁ……」


結局俺は、凛を探せと言われても何の手がかりもなくて、そのまま自分のマンションへと戻った。

まだ慣れないドアノブに鍵を差し込み、ドアを開けた。


「……」


綺麗に片づけられた部屋。
まだまだ新しさが残っている、築浅のマンション。

つい最近、俺はここに引っ越してきた。


「……あれ…」


でもふと思った。

俺、どうしてここに引っ越してきたんだ……?


つい最近まで、別のマンションに住んでいた。
だけど何かを理由に、ここへと引っ越しを決めた。


その「何か」が何も思い出せない。
俺はどうして、引っ越そうと思ったんだ……?


まだ腑に落ちないまま靴を脱ぎ捨てて、いっぱいになったボストン鞄を持って部屋に入っていった。


「……っ…」


部屋に入って衝撃を受けた。


その部屋は
俺ではない別の人間が生活していた跡がたくさん残っていた。
 
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