ノラ猫
それからしばらく、とりとめのない話をした。
いたってシンプルな、何の料理が好きだの、こういった人が電車にいただの……。
今の自分にまったく縁のない話が、智紀の口から次々と出ていた。
「飲み終わった?」
「あ……うん」
「じゃあ、今日はおとなしく寝なさい」
「……うん」
飲み終えてしまったココアに、ほんの少しだけ寂しさがこみ上げた。
なくなってしまったココアにたいしてなのか、
智紀と話す時間が終わってしまったからなのか……。
自分でもよく分からない。
「寝室まで連れてってやるから」
「い、いいよ」
「いーから」
グイと引かれた手。
この前みたいに倒れるほどではないから抱きかかえられることはなかったけど、掴まれた手首が熱く感じる。
「眠くない」
「やっぱ子供だな」
「でも……さっきより寝れそうな気がする」
ベッドへ横になって、しっかりとかけられた掛布団。
一日寝てしまった体に、そんなすぐには睡魔はやってこないけど、
温かいココアを飲んだせいか、落ち着きを取り戻していた。
「寝るまでここにいてやるよ」
「え」
そう言って、智紀はベッドの淵に寄りかかるように枕元に座り込んだ。