ノラ猫
「はぁっ…はぁっ……」
凛は何かに怯えるようにして、自分の体を抱きしめている。
一歩下がって、唇を強く噛んで……
「……悪い。体が勝手に……」
「もう……いい加減にして……」
蚊の鳴くような、小さな声。
顔を上げた凛は、懇願する眼差しを俺へと向けていた。
近づくことを許してくれない。
今の俺は、凛にとって他人だから……。
だけど……
「………っ…」
「凛っ!!」
凛は今度こそ、俺から逃げるようにして、背中を向けて走り去ってしまった。
追いかけたいのに、足が地面にへばりついてしまったように動かない。
遠くなっていく背中。
消えてしまう彼女。
早く追いかけないと……
だけどなくなってしまった記憶が
俺の足を引き留めた。