ノラ猫
「は、なして……」
「嫌だ」
「なんでっ……離してよっ……」
トクトクと聞こえる鼓動の音。
鼻をかすむ智紀の匂い。
こんなにも愛しくて
こんなにも優しい。
智紀の腕の力は弱まらなくて
呼吸をするのも難しいくらい強く抱きしめられる。
お願い。
もう辛いよ……。
智紀があたしを忘れたみたいに
あたしも智紀を忘れたいの。
感情も全部捨てて
無だったあの頃に戻りたい。
だからお願い……。
「好きだ」
耳元で聞こえた、微かな声。
え……?
今のは聞き間違い?
幻聴?
一瞬にして頭が真っ白になって、腕の力が抜けた。
「凛が……好きだ」
繰り返された言葉。
腕の力がさらに強まった。