ノラ猫
 
「ダメじゃ…ない……。

 ダメなんかじゃないっ!!」


ぎゅっと抱きかえす腕。
こみ上げてくる感情。


「ダメなんかじゃないっ……。
 あたしもっ……智紀が好きっ……」


本当は、ずっとその言葉を待っていた。

記憶を取り戻さなくても、
そんなの関係ないって……。
もう一度あたしを好きになってくれるって……。


「もう一人は嫌っ……。
 一人ぼっちは嫌なのっ……」

「凛っ……」


緩まった腕は、もう一度力を込めてあたしを抱きしめる。


「智紀がいないと笑えない。
 智紀がいないと幸せになれないっ……。

 あたしの全ては智紀なんだよ」


いつからか、弱く、脆くなってしまった自分。


独りで生きることが当たり前だったのに
優しさと愛情を知ってしまったから……。


「一人にさせてごめんな……。
 これからはずっと傍にいるから」


この温もりを
二度と離したくない。
 
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