ノラ猫
「凛……」
抱きしめられたまま、耳元で優しく囁かれた名前。
小さく振り向くと、智紀と目が合って……
「どうしても、見たいものがあるんだ」
そう言って、あたしの頬にそっと手を重ねた。
「凛の笑顔が見たい。
作り笑いでも愛想笑いでもない……本当の笑顔」
予想外の言葉に、目を丸くさせた。
笑顔……。
いつから笑わなくなってしまったんだろう……。
だって笑えるはずなかったから。
智紀のいない世界で、笑顔なんて必要なくて……。
「……うん…」
でも今なら笑えるよ。
大好きな人が、今目の前であたしを見つめていてくれているんだから……
「智紀……大好き」
そう言って、今持つ最高の笑顔を見せた。
「ああ、その笑顔知ってる……。
俺の好きな笑顔だ」
こんなにも、愛しいという気持ちが溢れている。