ノラ猫
「ってぇ……お前、何す……」
「凛ちゃんは、もっと痛かったと思うけど?」
「は……?」
雄介も、殴った手が痛かったのか、ぶらぶらと振っている。
倒れこんだ俺を見下ろして、鋭い目でにらんでいた。
「思い出すの、遅すぎなんだよ。
凛ちゃんの痛みを思い知れ」
「……」
ようやく、雄介に殴られた意味を知った。
凛は決して、俺を責めなかった。
記憶をなくしたのは俺のせいじゃないと、今自分を好きでいてくれているならそれでいいと言ってくれた。
だけど本当は、そんなんじゃいけなくて……。
「ほんとはもう一発、俺の分も殴ってやりたいとこだけどな。
それだと逆恨みになるからやめとくわ」
「なんだよそれ……」
それだけ言うと、雄介はニカッと笑って、俺へと手を差し出した。
「あやうく、本当に凛ちゃんを奪うとこだった」
「はっ…お前になんか渡すかよ」
「よく言うぜ」
差し出された手に自分の手を掴み、グイと引かれて立ち上がった。
雄介は熱い男で……
いつも真っ直ぐで嫌味がない。
「凛ちゃん」
「あ……はい…」
一歩下がって戸惑っている凛に、雄介は振り返った。