ノラ猫
 

   ***


ガチャリと鍵をまわして、ドアノブを回す智紀。
後ろでそれを見ていた。


開かれたドアの先には、いつもの光景があって……。


「どうした?入んねぇの?」
「あ……」


そう言われて、少しだけ戸惑ってしまった。


一緒に帰ってきたけど、正直またここに戻ってきてよかったのか不安がある。

飛び出してしまったこの部屋。
そしてまた、同じ過ちを犯そうとしていた自分。


昨日この部屋を、もう二度と戻らないつもりで出て行った。


そして昨晩、あたしは男をひっかけて、身元も知らない男とともに一夜を過ごそうとして……。


(……ごめん。やっぱ帰る)
(は?どういうこと?)
(そのままの意味)
(あ、おいっ……)


だけど結局、最後の一歩を踏み出せず、男から逃げ出してしまった。


過ごした場所は、いつもの公園。
ただ夜が明けるのを待っていた。


午後になって
お腹も空いて
やっぱり生きるためには一つの手段しか思い浮かばなくて……。


もう一度別の男をひっかけて
覚悟を決めたときに、智紀と会った。


確かに未遂かもしれない。
だけど智紀を裏切ろうとしたのは事実だ。
 
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