ノラ猫
「何言ってんだよ。
ここは凛の家だろ?」
あたしの不安をなくすように、優しく笑いかける智紀。
それでもなお、足が進まないあたしの腕を、智紀がグイと引っ張った。
「おかえり。凛」
「……」
強引に玄関の中へと引っ張られて、閉まってしまうドア。
だけど耳元で聞こえる優しい声……。
おかえり。
ああ、そうか……。
ここは唯一あたしが……
「………ただい…ま…」
その言葉を言える場所なんだ。
「やっと、ちゃんと凛を感じられた」
「……うん。あたし、も……」
誰もいないこの空間。
あたしと智紀だけの場所。
お互いに強く抱きしめあって
自分が欲しているのは目の前の人だけなんだと強く思う。
「今すぐ凛を抱きたい」
「……うん。いいよ…」
遮るものは何もないと
今はただ、動物的な本能だけで十分だった。