ノラ猫
 
「どこ行くんだよ?」


熱を見て、すぐさま立ち上がった。

甘えてしまいそうな自分が押し寄せてきて、
こんなんじゃダメだと必死に言い聞かせてる。


「出てくよ。最初からその約束だったでしょ?」


あたしがこの部屋にいた理由は、ただ熱があったから……。

高熱を抱えたまま、ふらふらと出歩く少女を、放っておけなかっただけの理由。


「行く宛あんの?」
「……べつに」
「帰るとこないって言ってたよな」
「なんとかなるよ」


もちろん、家に戻るつもりなんてさらさらない。


あたしが戻る場所と言えば、いつもの街中。

バカな男がたくさん集うところしかない。



「今までどうしてた?」



その言葉を聞いた瞬間、
今まで高ぶっていた感情が、いっきに冷めていった気がした。

そうだ。
あたしに生きるための選択肢なんか存在しない。



「あたしみたいな女が、何ヶ月もどうやって生きてきたか、想像つくでしょ?」



嘲笑いながら、智紀を見上げた。
その瞳は、どこか苦痛にゆがんでいる。



「毎日違う男に抱かれてたの」

「っ……」



その途端、
ダンッ!!と大きな音が部屋中に響き渡った。
 
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