ノラ猫
「あたし……
初めて会ったあの時から、ずっと智紀のことが好きだったんだよ」
真っ直ぐと見つめられ、俺への気持ちを明かした。
逃げることもできた。
気づかないふりをすることもできた。
だけど彼女の強さと弱さを知っているから……。
「……ごめんな」
ちゃんと聞いたうえで、返事をしたかったんだ。
「あ、謝ったな!
もー!本当はこんなこと、絶対に言うつもりなかったのにー!」
だけど当の本人は、ケロッとした表情で文句まで言っている。
それが綾香の持ち前の明るさだと知って、その姿を見守った。
「だって智紀ってば、明るくふるまうくせにいつも本当の自分を隠してて……。
それをあたしに見せないってことは、まだまだあたしには心開いてくれてないって分かってたんだもん。
だから手術して……元気になったら今度こそって……」
最後のほうは、声が震えていて、パッと俺から目を逸らした。
「ほら!そろそろ迎えに行ってあげなよ。
あの子可愛いから、放っておくとナンパされて連れて行かれちゃうよ」
ぐずっと鼻をすすって、変わらず明るい声で俺の背中を押す。
だけど振り向かない。
振り向けない理由は分かってる。
「ああ……」
だからあえて、何も気づかないふりをして綾香に背を向けた。