ノラ猫
「お待たせ」
ベンチに座って、空を見上げる小さな女の子。
「終わったの?」
「ああ」
だけど向けられた視線は、ドキッとするほど大人っぽい。
「大丈夫、だった?その……綾香、さん……」
「ああ。アイツは強いから」
嫌味でもない。
心から心配そうに問いかける凛は、もう人を気遣うほど優しさももっていて……。
「あたし……今度、綾香さんとちゃんと話してみたいな」
「そうだな」
俺以外との人とのかかわりも、持ちたいと思う普通の女の子になっていた。
「じゃあ、帰ろう」
差し出した手に、小さな手が重なる。
白くて、細くて、儚げな……。
「今日は今から指輪見に行くか」
「え?」
「約束、ちゃんと果たさないと」
あの日、本当は凛と結婚指輪を見に行く約束をつけたはずだった。
こんなことがなければ、もう俺たちは籍も同じだったはず。
「嫌?」
俺の言葉に、凛はぶんぶんと首を横に振って、
「行く!行きたいっ!!」
どこにでもいる、ごく普通の幸せな顔をした笑顔を見せてくれた。