ノラ猫
メイクと髪の毛もセットされ
いつもの自分とは全く違う自分が鏡に映る。
指輪の出来上がりに合わせて、籍は今週末、入れる予定だった。
今日はもともと智紀の仕事の日だと聞いていたし、いつもの日常がそこにあるだけだと……。
「はい。もう大丈夫ですよ」
スタッフのお姉さんに促され、歩きづらいドレスを引きずりながら控室を出た。
ドキドキと胸がなっている。
夢なんじゃないかと気持ちがふわふわしている。
目の前の大きな扉が開けられ
そこには一人の青年が立っていた。
シルバーグレーのタキシードを着た
大好きな人の後ろ姿で……。
あたしの存在に気づいて、ゆっくりと振り返る。
そして一瞬の驚きを見せた後、優しい微笑みを浮かべて……
「やっぱすげぇ綺麗。
俺の見立て、間違いなし」
そんな得意げな発言をしていた。
「ど…いういうこと……?」
「結婚式。挙げよう。二人だけだけど」
小さめのチャペルに、参列客は誰もいない。
あたしと智紀と、牧師さんだけが立っている。
「おいで。凛」
差し出された手。
涙ぐんで、よく視界が見えない。
スタッフの人がハンカチを差し出してくれて、ようやくハッキリとした視界の中、一歩踏み出した。