ノラ猫
 
乱暴に剥ぎ取っていく服なのに
直接触れてくる手は繊細で優しくて……。


「凛……」
「……」


名前を呼ぶその声も
まるで恋人を呼ぶかのような愛しさまで感じてしまった。



初めて、男に触れられることが嫌だと感じた。


智紀の触れてくる手が
他の男と違う。

壊れ物を扱うかのように繊細で
見つめてくる瞳が優しくて……


自分を見失いそうで怖くなる。


「なあ、俺の名前呼んでよ」

「……とも…き……?」

「凛」

「っ……」


意味のつかめない名前を呼びあうその行為に
胸の奥がきゅっとなる何かを感じた。




知らない。
こんな感情持ち合わせてない。



「俺から逃げるな」



ノラ猫は
誰の手にもおさめられはいけないんだ。

 
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