ノラ猫
 
踏みしめた公園は、闇に包まれた空間。
だけどベンチのみが、すぐ後ろにある街灯のおかげで、スポットライトのように光を浴びていた。


こんな深夜に、公園へ訪れている人なんて誰もいなくて
一人怖がることなく中へ踏み入れた。


シンと静まる公園。
ひんやりと冷えたベンチに、そっと腰掛けた。


「……さむ…」


まだまだ春先のこの季節。
日中はいくらか暖かくなってきたけど、夜は上着を着ていても寒いくらいだ。

吐く息は白くて
体温はどんどん奪われていく。


だけど見上げた空は、悲しいくらい星空が綺麗で……



「……」



なんでか、胸の奥がきゅんと切なくなった。


人の温かさなんか忘れてた。
忘れようと必死に心を殺して、なくなっていたと思っていた。

だけどわずかに入り込んできた、智紀の温もり。
勝手に期待して、勝手に裏切られた気分に落とされて……。



「ほんと……バカみたい…」



まだまだ心を押し殺せていない自分に、嫌気がさした。


もう一度汚い世界に足を踏み入れよう。
今度こそ、人に期待なんかしないよう……優しさなんて、人が作り出したただの幻想だと……

そう胸に入れようとしているのに………




「やっと見つけた……」

「……な…んで……」




闇から現れた一つの影。

そこには、智紀の姿があった。
 
< 32 / 258 >

この作品をシェア

pagetop