ノラ猫
 
あたしの叫び声に、智紀は足を止め、ただ見つめてくる。
真っ直ぐなその瞳が、まるで責められているかのようで直視できない。


「あ…んたといると調子が狂うっ。
 自分が自分じゃいられなくなるのっ」


ずっと一人で生きることが当たり前だと思ってた。
誰にも頼らないで生きることが、自分の道だと思ってた。

だけど触れてしまった優しさに
期待したくもない希望を抱えてしまう。


「凛の言う自分って、どんな自分だよ?」


叫ぶあたしに、落ち着いた声。

まるで子供をあやす声だ。


「凜の言う自分って…
 他人に頼らない自分?
 一人で生きていける自分?

 世の中に…絶望している自分…?」

「……」


まるで人の心を読んでいるかの言葉。


絶望……。
その言葉があたしにはピッタリだ。


この世界に光も味方もない。

あるのは傷つける人間と、見てみぬふりをする人間。



「俺といると自分じゃいられなくなるのは何で?」



そう言って、智紀は止めていた足を再び前へ出した。
 
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