ノラ猫
「こ、ないで……」
「俺に期待した?
自分に優しくする男なんているんだ、ってそう思った?」
「……」
人の言葉なんか聞かないで、距離を詰め続ける智紀。
駆けだしたくても足が鉛のように重たく動かなくて
ただ近づいてくる智紀を見上げているだけ。
期待……してしまった。
だから嫌だった。
智紀に抱かれることが……。
所詮、智紀も、他の男と……あの男と変わらないんだって……。
「いいじゃん。期待すれば。
期待した分だけ、そのまま返してやるよ」
「………え…?」
予想だにしなかった言葉に、間抜けな声が漏れてしまった。
見上げたそこには、優しさを含んだ笑顔の智紀がいて……
「ごめんな。感情のままに抱いちまって……。
凛のこと、手放したくなかっただけなんだ。
そう言って、智紀は壊れ物に触れるかのように、そっと頬を撫でた。