ノラ猫
涙なんて、もう枯れ果てているかと思ってた。
感情をなくしてしまえば、もう流すこともないと思ってた。
だけど再び湧き上がる
胸を熱くさせる感情。
一度あふれ出た涙は、堰を切ったかのように零れ落ちた。
「な、んでっ……」
「ん?」
「なんでっ……こんなあたしなんかに構うのっ……」
ノラ猫の人生になってから
人に構われることなんてなくなってた。
人があたしに興味を持つのは
そこに「女」としての体があったから。
だから用が済めば終わりだし
繋ぎとめようとすれば、体を必要とする。
「抱いてごめん」なんて言葉、聞いたこともなかった。
「なんでだろうな。
俺もよく分かんねぇ」
目の前の智紀は、そう言って笑っているだけ。
だけど触れている指先が、ツーッと涙をぬぐった。
「凛」
「な、に……」
「顔上げて」
伏せていたあたしに、頭上からの問いかけ。
ああ、なんでだろう。
そう言われると、急に恥ずかしくなってくる。