ノラ猫
涙でぐちゃぐちゃになった顔。
久々に感情を露わにした顔。
顔を上げてと言われて、生まれてくる抵抗感。
それでも智紀は、催促の言葉を続ける。
「いいから顔上げろって」
「ぁっ……」
クイと持ち上げられた顔。
ささやかな抵抗なんて意味をなさなくて
真っ赤になっているであろう瞳を、智紀へと向けた。
人の顔を見て、初めて感じた恥じらい。
散々見てきたはずの智紀の姿が、なぜかいつもと違って見える。
トクトクと奏でる鼓動の中、
智紀は今までに見た以上の微笑みを向けて、
「やっと俺を映したな」
そう言って、優しくあたしを包み込んだ。
ああ、知らなかった……。
人の温もりが
こんなにも温かいということを……。