ノラ猫
4章 過去
「さて、帰るか」
「え?」
そう言って、差し出してきた手。
どうしたらいいのか分からず、ただ智紀の手と顔を交互に見やった。
「何やってんだよ。さっさと繋げ。
俺がバカみてぇだろ」
「あ……」
一向に手を重ねてこないあたしに、智紀は自らあたしの手を掴んだ。
いつだかの手首を掴むのではなく、手のひらをしっかりと……。
「帰るって……」
「俺んちに決まってんだろ。それ以外、どこがあんだよ」
「で、も……」
「凛」
それでもうろたえるあたしに、智紀はもう一度あたしの真正面に立った。
じっと見つめるビー玉のような瞳。
街灯に照らされた奥が、サファイア色に光る。
「凛の帰る場所は俺の家。分かった?」
子どもに教えるかのように、ハッキリとした口調。
あたしが……帰る家。
放浪でも、毎晩別の場所でもなくて……
「じゃねぇと、鎖繋げんぞ」
「……それは、嫌」
「ならおとなしく着いてこい」
「……うん」
意地悪な言葉が、優しさなんだと
今はもう分かる。