ノラ猫
「ったく、またこんなに体冷やして……。
病み上がりなんだから、もうちょっと気をつけろよな」
「ごめん……」
部屋に入って、すぐにエアコンを入れてくれた。
真っ暗闇の初春の夜。
1時間もいれば、体は氷のように冷たくなっていた。
智紀は毛布をかぶせてくると、一人キッチンへと消えてしまった。
「ほら」
「あ……ありがとう」
すぐに出てきたときには、両手にマグカップ。
苦いにおいと、甘いにおい。
コーヒーとココアだった。
あたしに渡されたのは、やっぱり甘いにおいを漂わせたココアのほうで……
「あったかい……」
「火傷すんなよ」
「うん……」
温かいという意味が、いろんな意味を含ませた。
体に浸透する、温かいココア。
だけどそれ以上に、優しさを感じるココア。
お母さんが作ってくれたココアよりも、少しだけ甘みがなくて
大人になった今では、それがちょうどいい。
「………智紀…」
「ん?」
ココアがあたしを素直にさせたのか、
重たい口をゆっくり開いた。