ノラ猫
あの頃は、笑顔が絶えなかった。
お父さんとお母さんのいる、当たり前の家庭。
自分がどれだけ恵まれているかも、気づかないほどの平和な日常。
12歳の誕生日、
ちょうどその日は土曜日で、家族そろって車で出かけた。
《ねぇ、どこ行くの?》
《それは着いてからのお楽しみ》
後部座席で、お母さんと隣に座ってお父さんに尋ねた。
お父さんは微笑んでいるだけで、行き先は教えてくれない。
だけど本当は、どこへ向かっているか最初から分かってた。
昨日の夜、トイレで起きたときに、お父さんとお母さんの話を聞いていたから……。
今日はあたしに内緒で
遊園地に連れて行ってくれている。
12歳ながらにして、サプライズで連れて行こうとしてくれる両親を気遣い、わざと何も知らないふり。
隣に座るお母さんも、ニコニコと笑っている。
楽しみで、
早く着かないかとソワソワしてた。
着いたらちゃんとビックリするんだ。
お父さん、お母さん、ありがとう!って笑顔で答えるんだ。
頭の中で着いた時のことを考えて、今日これからが楽しみで仕方なかった。
だけど……
プップーッ!!
突然聞こえた、大きなクラクション。
《凛っ!!》
気づけばあたしの視界は、お母さんの胸元で遮られていた。