ノラ猫
 

   ***


「だから最初、あんな瞳をしてたんだな」


過去を話しきると、隣に座っていた智紀が一声かけた。


「あんな瞳?」
「他人を寄せ付けない瞳。すげぇ冷たくて、感情がまるで見えなかった」
「……あっても無駄だって言い聞かせてたから……。
 楽しいことを知っているから寂しくなる。幸せを知っているから不幸になる。だから何も思わなくなったの……」
「バカか」
「……」


傾けられた体。
気づけばすぐそこには智紀の胸元。


「その逆に決まってんだろ。
 寂しさを知ってるから楽しいことをしたくなる。
 不幸って感じるから、幸せになりたいって思うんだろ」

「そ…だよ。だからあたしは……」

「なればいいじゃん。幸せに」

「え……?」

「なれるよ。凛は絶対に」


まるで根拠なんかないのに、自信満々な一言。

流されそうになるほど、説得力を感じてしまう。


「……無責任なこと言わないで」
「じゃあ、責任とってやろうか」
「どういう意味?」


「俺が幸せを感じられるまで、傍にいてやるってこと」


そう言って、智紀はあたしの頭を撫でた。
 
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