ノラ猫
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「だから最初、あんな瞳をしてたんだな」
過去を話しきると、隣に座っていた智紀が一声かけた。
「あんな瞳?」
「他人を寄せ付けない瞳。すげぇ冷たくて、感情がまるで見えなかった」
「……あっても無駄だって言い聞かせてたから……。
楽しいことを知っているから寂しくなる。幸せを知っているから不幸になる。だから何も思わなくなったの……」
「バカか」
「……」
傾けられた体。
気づけばすぐそこには智紀の胸元。
「その逆に決まってんだろ。
寂しさを知ってるから楽しいことをしたくなる。
不幸って感じるから、幸せになりたいって思うんだろ」
「そ…だよ。だからあたしは……」
「なればいいじゃん。幸せに」
「え……?」
「なれるよ。凛は絶対に」
まるで根拠なんかないのに、自信満々な一言。
流されそうになるほど、説得力を感じてしまう。
「……無責任なこと言わないで」
「じゃあ、責任とってやろうか」
「どういう意味?」
「俺が幸せを感じられるまで、傍にいてやるってこと」
そう言って、智紀はあたしの頭を撫でた。