ノラ猫
 
忘れてた感情。

楽しいことをしたい。
嬉しいと感じたい。



誰かと共に、過ごしたい。



「りーんっ……」

「……」



耳元で囁かれる自分の名前は
感じたことのないほどくすぐったくて……


「俺の傍にいろよ。
 人形や玩具なんかじゃない。

 一人の女の子として」


「っ……」


自分勝手な発言なのに
どうしようもないほど胸がいっぱいになった。



うれし涙なんか知らない。
そんなもの、存在しない。

そう思っていたはずなのに……



「意外と泣き虫なんだな」

「……智紀のせいだっ……」



あたしはこの日、二回も泣いた。
 
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