ノラ猫
「仕事行っても平気?」
「何それ」
「寂しいと思って」
「……そんなわけないじゃん」
人をからかうように、そんなことを言ってくる智紀。
寂しいなんて、さすがにそんなこと思わない。
仕事に行かれて寂しいなんて、小学生でももう思わないはず。
「鍵、置いてくから、好きに出入りして」
「……うん」
「夕飯、作ってよ」
「え?」
予想外のお願いに、思わず顔を上げた。
智紀は相変わらず、人を試すような含み笑いをしていて……
「作れるんだったらな」
そんな売り言葉みたいな言葉を吐いた。
「作れるし」
「じゃあ、楽しみにしてる」
その言い方が、智紀の策略の一つだと気づいたのは、彼が「行ってくる」と言って、玄関の扉を閉めたあとだった。
でも作ってやろうじゃん。
料理くらい。