ノラ猫
突然聞こえた頭上からの声。
自分に降り注ぐ雨もなくなり、うっすらと瞼を開けた先には黒い革靴。
「聞こえてる?
こんなとこで何やってんだよ」
「……」
ようやく顔を上げきったそこには、
あたしの姿を見て、呆れ果てた顔をした男がいた。
「びしょ濡れじゃん。死ぬ気?」
「……」
「口きけねぇの?」
「……きけ、る…」
眉をしかめて屈んでくる彼に、なんとか絞り出して答えた。
気づけば声を発するのすら、辛くなってる。
「こんな雨の中、何やってんだよ。早く帰れ」
「……帰る場所…ないから」
大雨なのは分かってる。
それにこんなびしょ濡れになったら、出迎えてくれる店だってない。
男をひっかけることだって出来ない。
あたしに行く場所なんて、どこにもない。
「………なら、俺んち来る?」
「え……?」
予想外の言葉に、大きく目を見開いた。