ノラ猫
 
やっと信頼できる人を見つけたあたしにとって
誰かを愛するなんて気持ちをもつのにはまだまだ難しすぎて……。


それでも今、
智紀の傍にいることが、一番の安らぎの場所なんだということは分かった。


くすぐったいこの気持ち。

いつかこの本当の意味に気づける日が来るだろうか……。










「さてと……」


それから何日か経って、変わらない日常を過ごしていた。

朝になれば智紀を見送り、部屋に残ったあたしは、掃除や洗濯など、まるで主婦のような生活。


自分でも、まさかこんなことをする日が来るなんて想像もしていなかった。
一つの家に住みつくなんて、永遠に来ない。

毎日街を徘徊し
そのうち人知れず姿を消す人生だと……そう思っていた。



今日もその一日で、
家のことをすべて終わってから、夕飯の買い出しに出ていた。


片手に買い物袋をぶら下げ、もう慣れた道のりを歩く。


心は少し前の自分では考えられないくらい、晴れた日のようになっていた。
 
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