ノラ猫
6章 魔の手
一瞬にして、世界が歪んだ……。
さっきまで色鮮やかに見え始めていた世界が、また色をなくしていく。
「凛、今までどこに行ってたんだ?探したじゃないか」
優しい微笑みを向けたまま、あたしとの距離を縮めてくるにいさん。
心臓がドクドクと速くなって
じんわりと嫌な汗が滲み出てくる。
必死に封じ込めたはずの忌まわしい記憶が
悲鳴をあげながら蘇っていく。
玩具としての自分……。
あの家でだけ、息をすることを許された自分……。
「さあ、一緒に帰ろう。俺らの家に」
「い……や……」
距離が縮まって、手を差し伸べられた。
逃げ出さないといけないのに
足が凍ってしまったかのように1ミリたりとも動かなくて……。
「また俺が可愛がってやるよ」
「やだぁっ……!!」
にいさんの手が再び動き出して、あたしの手首を掴もうとしたその時……
「凛っ!!」
後ろから、今一番聞きたい人の声が聞こえた。