ノラ猫
「ちょっと座ってろ」
あのまま、智紀に手を引かれるようにして、家に帰った。
体は体温を奪われて、冷たくなり、
いまだに体は小刻みに震えている。
「とりあえず、飲んで落ち着け」
「……あり、がと」
キッチンへ消えた智紀は、すぐに戻ってきて、あたしに何かを差し出した。
それはあたしの好きな、甘い香り……。
白い湯気をたたせながら、鼻の中に匂いが入り込んでくるココア。
「……おいしい」
「ん」
コクリと喉を鳴らして流し込んだココアは、冷たくなったあたしの体を癒した。
智紀はあたしの隣に腰をかけ、何も言わず傍にいてくれる。
その優しさが身に染みて、ココアを半分ほど飲み終えると、小さく口を開いた。
「………さっきの……あれがにいさん…」
「……ああ」
あの男が何者なのか、智紀も感づいていたらしい。
正体を伝えても、驚きの声は返ってこなかった。