ノラ猫
数日が経って、あれからにいさんがあたしの前に現れることはなかった。
といっても、あたしが不必要に外へ出ることがなかったから。
夕飯などの買い出しは、休日に智紀と一緒に買いだめをして、一人での外出は控えた。
いつどこでまた、あの男が現れるのか……
その恐怖だけがあたしについて回っていた。
「悪い。今日は締切近くてちょっと遅くなる」
「分かった」
そこまで言われて、今さらながら思った。
「締切って何の?」
「ん?写真以外何があるんだよ」
「写真?」
「あれ?言ってなかったっけ」
噛みあわない会話に、一つの事実に気づいた。
そういえばあたし、智紀が何をしている人なのか知らないんだ……。
「一応俺、カメラマンなんだけど」
「そう、なんだ……」
初めて聞かされた、智紀の仕事。
そういえば、たまに見える智紀のパソコンには、いつもいくつもの写真がずらりと並んでいた。
「もともとはパパラッチ。
今はモデルのカメラマン」
「知らなかった」
「そうだったな。ま、それに関しては、またちゃんと話してやるよ」
「うん……」
興味がなかったといえばそうかもしれない。
智紀が何をしているかなんて……。
あたしにとって智紀は、智紀という存在だけで十分だったから……。