ノラ猫
「凛のその顔、俺を余計に煽らせるだけって分かってる?」
「……」
怯えながらにいさんの顔を見上げていると、面白そうに微笑みながら、ギシッと音を立ててベッドに腰掛けた。
手を伸ばせば触れられる距離。
体が硬直して、再び人形のようになりそうにもなる。
「べつに、そんな今すぐどうこうしようなんて思ってないから」
何も言い返さないあたしに、くすくすと笑っていた。
「せっかく再び手に入れられたんだから。
じわじわと攻めていかないとね。
今度こそ、もう逃がさない」
目を細め、ゆっくりと手を伸ばしてきた。
肩下を流れる髪をすくい、グンとそれを引かれる。
「い、ったっ……」
「なあ、凛」
声が低くなり、加速していた鼓動は、さらに音を立てて波打った。
この瞬間が怖かった。
優しさを浮かべるにいさんが、豹変する瞬間。
声のトーンが変わり、冷酷な瞳を向けられる。
「勘違いすんなよ?」
髪の毛を思いきり引っ張られ、耳元で囁かれた。
それは舞い上がっている自分への、戒めの言葉……。